おやつ
帰宅した時の決まり事には、知る人ぞ知る、家に入るための我家の犬達による歓迎の儀式が行われる。
友達には、「よく来てくれた!久しぶりだ!」と喜び、興奮の大騒ぎ。
俺には、「どこいってたんだよ!」と、半分怒りが入った喜びと興奮で大騒ぎ。
あの、大きく固い爪と太い両前脚で、お腹のあたりに飛びつかれれば、痛いし、狭く足場の悪い我家ではよろける。
顔、口、耳や手をベロベロ舐め回されてチクチク甘噛みされ、ズボンの裾を噛み付き引っ張られるながらリビングに入って荷物を置く。
手を洗いと、うがいのためキッチンに行くと、黒犬のポーリーと斑のロボは、きちっと冷蔵庫の前できちっと座って、俺の目と冷蔵庫を交互にみる事を繰り返すアイコンタクトをして、おやつを要求する。なぜか我家では家に帰って来た人は犬達におやつをあげなければならないようになってしまっている。
このおやつを食べる事は犬達にとって重要な事だ。
おやつをあげると、ふたりはくわえたままリビングに走っていきそこで食べる。
食べ終わるとポーリーは必ず牛の蹄を噛みだす。斑の若い雄犬のロボは俺に戦いを挑んで来るから相手にする。
この一連の作業は毎回繰り返される。
しかし、ごくたまに時間が遅くなったときなどに、この儀式を行わずに家に入らないでそのまま犬と散歩に出る時がある。おやつもあげないで。
そして、散歩から帰って来て犬の手足をきれいにする。かみさんはそのまま台所で夕飯の支度に入る。俺はケン坊と立ち話しをしながら早くシャワーを浴びて一杯やろうとしている。ふっと気がつけば、息の荒いポーリーが、尻尾を振りながらビリヤードの玉のような目をキラキラさせてこっちを見ている。
「なんだどうした」というと、
「さっ、父ちゃんこっちでしょ」と、リビングの入口の方へ俺を誘う。
そっちに行くとポーリーはそのまま俺をキッチンへ導いていく。
そして、冷蔵庫の前できちっと座り、
「ほらっ、父ちゃん、ほらっ、ほらっ、そこあけて、ほらっ、なんか忘れてない? ほらっ父ちゃんっ」と、俺の目と冷蔵庫を交互に見て必死な訴えをする。
えーびっくり!おやつの事、忘れていないんだ。
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